レーシングカーの運動性能を向上させるには、エアロパーツによるダウンフォースのほかに、もうひとつ忘れてはいけない重要なポイントがあります。それが、今回のテーマ、『ホイールアライメント』です。コンマ1秒を競うレースにおいては、ホイールアライメントの差が勝負の明暗をわけるといっても過言ではありません。

ホイールアライメントってナ二?

クルマはハンドルに軽〜く手を置いているだけでも真っすぐに走ってくれます。また、カーブは楽々曲がれるし、曲がり終わればハンドルは自動的に直進の状態まで戻ってくれます。これ、ナゼだかご存知でしょうか?
 実はクルマの直進安定性も、直進状態に戻す力「復元性」も、さらには軽やかな操作性もホイールアライメントによって実現しているのです。
ホイールアライメントとは、クルマに取り付けられた4本のタイヤの並び方を指しています。タイヤはすべて進行方向に対して垂直に取り付けられていると勘違いされている方もいらっしゃいますが、実際には目で見ても判らない程度にタイヤは角度をつけて、やや傾けて取り付られています。このタイヤの取り付け角度には主に「キャスター」、「キャンバー」、「トーイン」、という3つの要素があり、それぞれが車の走行安定性や、操作性に大きく影響を及ぼし合っているのです。

キャスター


日常生活のそこかしこで、図のようなキャスターを見かけるかと思います。動かせばクルリと向きを変えて、押した方向にスムーズに進むようになっています。実はホイールアライメントにおける「キャスター」も基本的な原理はコレと同じなんです。
クルマを横から見ると、前輪がステアするときの回転中心軸(キングピン)は、垂直よりもわずかに後ろに傾けて取り付けられています。わざと後ろに傾けることで、オフィスの椅子や家庭用のワゴンと同じように、クルマのタイヤも走行時の抵抗で直進状態に戻ろうとするのです。キャスターはクルマの直進安定性を高め、同時にステアリングを切っても自然に直進状態に戻ろうとする力、「復元力」を生み出しています。

キャンバー

クルマを正面から見ると、タイヤは逆ハの字に取り付けられています。垂直の状態をゼロとして、逆ハの字の状態をプラスキャンバー、正ハの字の状態をネガティヴキャンバーとそれぞれ呼んでいます。車体重量に負けてタイヤが正ハの字に開いてしまわないように、通常はプラスキャンバーにセッティングされているのですが、キャンバーには開きの抑止効果のほかにも「ステアリングを切りやすくする」という目的もあります。角度をつけることでタイヤと路面の接地面積は小さくなり、ハンドル操作がグッと軽くなるのです。

そう聞くと「目いっぱいプラスキャンバーにしよ!」と考える方もいるかと思いますが、プラスキャンバーのセッティングには、ひとつだけ問題があります。角度をつけたことで、ちょうどエッジを立てたスキーやスノボのように、タイヤはそれぞれ外に向かって進もうとしてしまうのです。いくら操作性のためとはいえ、これではせっかくキャスターで得た直進安定性がムダになってしまいますよね?
そこで、キャンバーでロスした直進安定性を補うために、次に説明する「トーイン」が存在するのです。

トーイン


英語のトー(toe)は訳すと「つま先」を意味しています。「トーイン」とはtoeがinした状態、左右のタイヤを人間の足に見立てて例えるなら、ズバリ「内股」のことなんです。クルマを上から見たとき、タイヤは一般的にトーインにセッティングされています。プラスキャンバーで外に向かって進もうとする力を、内側に進もうとするトーインで相殺することで、直進安定性を保っているのです。

レーシングカーのホイールアライメント

購入して間もない市販車なら、「キャスター」、「キャンバー」、「トーイン」のすべてが完璧といえるセッティングになっています。しかし、市販車をレーシングカーに作りかえていくうえでは、再度ホイールアライメントを煮詰めていく必要があります。重量が1000kg以上もあって、頑丈そうなイメージが強いクルマですが、意外にも傾斜角が1〜2度、タイヤの開きが1〜2ミリという目に見えないような微妙なセッティングの違いで、走行性がガラリと変わってしまうのです。タイヤをインチアップしただけで、ハンドルの切れが悪くなったり、完璧に調整をしたハズでも、縁石にガンガン載せてサーキットを走れば、たちどころにズレが生じてしまいます。ウイングフロントスポイラーなどのエアロパーツによるダウンフォースも走行性に大きく影響してきますので、それこそレースごと、コースごとにセッティングし直す必要があるのです。

コンマ数ミリ単位の緻密な調整であるのはもちろん、専用の設備も必要になってきますから、日ごろから足繁くショップやレーシングガレージに通って、スタッフと相談しながら煮詰めていくようにしましょう。エアロパーツやタイヤの選択、サーキットの特性、そしてアナタのドライビングスタイルなど、さまざまな要因を基に調整していきますので、そう簡単にはベストなセッティングが出ないとは思います。でもショップのスタッフとコミュニケーションを取りながら少しずつ手を入れていくのも、クルマいじりの楽しいところです。レーシングカー作りの基本はトータルパッケージです。全体のバランスを考えながら、地道にコツコツと仕上げていきましょう。